2013年のノーベル経済学賞受賞者であるロバート・シラーさんの「ナラティブ経済学―経済予測の全く新しい考え方(2021)」を読みました。
過去の不況やインフレなどの経済現象の際、どの様なナラティブ(物語)が誰(セレブなどのインフルエンサー)を介してヴァイラル(流行)していたのかを列挙している歴史本でした。特に1929年からの世界大恐慌の際の記述が多く、歴史本としては面白い反面、それぞれのナラティブが本当に経済現象の要因なのか、その程度はどの位なのかは全く不明であり、副題の「経済予測の全く新しい考え方」というのは言い過ぎというか、あくまで将来的な目標に過ぎないといった印象でした。
例によって個人的に気になった部分だけをまとめます。
アナキズム(ビットコインのナラティブとして)
哲学者プルードンは1840年にアナキズムを次のように説明している。
「統治されるというのは監視され、操作され、スパイされ、指図され、法に動かされ、数字を振られ、規制され、徴兵され、教化され、説教され、制御され、チェックされ、推計され、価値評価され、検閲され、命令されということだが、それを行う生き物どもは、そんなことをする権利もなければそれだけの知恵もない。」
プルードンの言葉は明らかに、権威当局に不満を感じるか、個人の充実欠如を当局のせいにする人々にとって魅力的だ。アナキズムが疫病的な規模にまで広がるには40年ほどかかったが、驚くほどの持続力を見せて今日もなお続いている。
虚偽のナラティブの影響
2018年にソロウシ・ヴォソウギらによってサイエンスに発表された、ソーシャルメディアにおける本当の物語と嘘の物語との感染率を比較した研究によると、嘘の物語の方が真実に比べてTwitterでのリツイートが6倍に上がることが分かった。著者たちはこの結果を人々が「目新しい情報を共有したがる」裏付けだと考えた。言い換えると、感染は他人を刺激して驚かせたいという衝動の反映だ。間違った物語を訂正する新しい物語は、最初の間違った物語ほどは感染力がない。つまり間違ったナラティブは、訂正された後でも経済活動に大きな影響を持つ可能性があるということだ。
倹約と顕示的消費ナラティブ
富の誇示の忌まわしさは、反復的なナラティブとして多くの国や宗教で最古のものの一つだ。こうした倹約ナラティブの反対にあるのは、顕示的消費ナラティブだ。人生で成功するには、その成果と権力を示すために成功をひけらかさねばならない、というわけだ。この二つのナラティブは絶えず争っていて、慎ましさが比較的強い時期もあれば、顕示的消費が支配的な時期もある。どちらも重要な経済ナラティブだ。というのも、どちらも人々の消費や貯蓄に影響するからで、つまりは経済全体の状態に影響する。実はこうしたナラティブは、経済学者や政策担当者が必ずしも予測しないような、大きな経済的影響をもたらすこともある。
大不況の影響を受けていない家族が顕示的消費を避ける理由は、他の家族の苦しみと思われるものに対する遠慮や、不況がさらに拡大そうだという見通しを考えてのことだ。
Tochiの勝手な感想
1930年代の世界大恐慌は、自動化による生産性向上が、消費し切れない過剰生産と大量の失業者を生んだことが要因であり、これは技術革新が発端であることから永続的に続くのだというナラティブが広く信じられていたそうです。
その後不況からは脱したのでこれは明らかに間違ったナラティブだった訳ですが、その時代に生きていた人は真実と感じていたことでしょうし、この様な“それっぽいナラティブ”は現代においても至るところで幅を利かせているものと推測されます。
これはつまり、多くの人や、偉い経済学者、有名人が言っているからといって必ずしもそれが正しいとは全く限らないということを歴史が示しているとも考えられます。
現代では例えば「長期で米株インデックスをホールドすればまず儲かる」だとか、「レバナスは減価するから辞めとけ」だとかは如何にも”それっぽいナラティブ”だと言えるのでしょうか。
いやでもだったら一体何を信じて行動を選択すればいいのでしょう・・。まさか(アホな)自分だけを信じるとか?それとも神様とか!?
もし仮に、全てを疑ってかかった方がまだマシな選択が可能だったとして、果たしてそれが幸せに繋がるんですかねぇ・・🤔(*考えているフリ)
コメント
それっぽいナラティブですか。
今はアメリカ株ブームですが、新興国ブームの時は先進国株は成長の伸びしろが無いから上がらないと言われていましたね。
結局、その時々に合わせたナラティブが語られているだけで、それが分かりやすいロジックであるほど永遠に続くと勘違いするんじゃないですか?
何を信じるにしても入れ込みすぎると外れた時の精神的ダメージがでかく、想定外のドローダウンでパニックに陥ったあげく体調を崩すので(経験済)、100%信じるのは良くないと思います。
>今はアメリカ株ブームですが、新興国ブームの時は先進国株は成長の伸びしろが無いから上がらないと言われていましたね。
その時に自分が株をやっていたら、確実にブームに乗っていましたね(笑)
>結局、その時々に合わせたナラティブが語られているだけで、それが分かりやすいロジックであるほど永遠に続くと勘違いするんじゃないですか?
実際そういうことなんでしょうね・・。
「ブラックスワン」のタレブさんは「社会科学で仮説の運命を握るのは伝染するかどうかだ。正しいかどうかじゃない。」と言っていました。ナラティブも似たようなものなのかも知れませんね。
>100%信じるのは良くないと思います。
そうなんでしょうね。信じるものが欲しい所ですが、過信は身の破滅を招くことがある・・。
だとすれば、何事も余りのめり込まずにゲーム位の感覚で楽しむのが一番いいのかも知れませんね。
バランス感覚が難しいです!