なぜ「コツコツドカン」で負けるのか? プロスペクト理論による謎解きと対策

突然ですがここで問題です。

あなたはどちらを選びますか?

A)コインを投げて表が出れば100ドルもらえるが、裏が出たら何ももらえない。

B)確実に46ドルもらえる。

ほとんどのヒトは何ももらえないというリスクを回避して(B)を選びます。(A)の方が期待値が大きいので合理的に考えれば(A)を選ぶハズですが、ヒトの直感的判断は「心理的価値」に基づいて為されるため、経済的合理性が無視されてしまいます。

では、心理的価値とは一体どの様なものなのでしょうか?

 【プロスペクト理論】 損だけは絶対イヤ! 

経済的価値と心理的価値はしばしばミスマッチを引き起こします。プロスペクト理論によると、これには主に3つの特徴が見られます。

1)損失は利益よりも大きく感じる(損失回避性)

2)資産が増えると利益の喜びが減る(感応度減少性)

3)ある点よりも上回れば利益、下回ると損失と感じる(参照点による評価)

これらをまとめると以下の図の様になります。

心理的価値と経済的価値(金額)の相関(プロスペクト理論)

参照:ダニエル・カーネマン著 「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」

利益よりも損失を過大評価する傾向があり、例えば100万円の損は225万円の得と同じくらいの心理的価値があります。これはヒトによって個体差があり、概ね1.5~2.5倍(損失回避倍率は平均2.25倍)であることがわかっています。

また100万円の得は嬉しいですが200万円の得を2倍嬉しくは感じませんし、貯金が全く無い時に貰う100万円は貯金が400万円ある時に貰うよりも嬉しく感じます(感応度逓減性)。

この様な特徴により、ヒトはしばしば合理性を無視した行動を取ります。例えば医療保険の期待値(還元率)は50%を下回りますが、リスクを過大評価することで魅力を感じて加入します。

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 なぜリスクを過大評価するのか? 

ヒトに限らず、動物の脳には悪いニュースを優先的に処理するメカニズムが組み込まれています。例えば、怒った顔は大勢のニコニコ顔の中から「飛び出して」見える一方で、大勢の中から1つのニコニコ顔を見つけるのは難しいことが知られています。

また、動物が記憶を保持するためには一般に反復した学習が必要ですが、危ない目に会った記憶に関しては反復を必要とせずたった1度の学習で長期に渡って保持されます。

この様なリスクを偏重するメカニズムにより動物は捕食者をいち早く察知してリスクを回避し、子供を産むまで生き延びることが出来ます。もちろん餌や獲物を獲得するチャンスにも敏感に反応はするものの、それでもなおチャンスよりリスクが優先されるのは、生存の為にはそれが必須であったから、つまりは本能によるものだと考えられます。

 「コツコツドカン」の本能 

個人トレーダーの多くは放っておいても「コツコツドカン」の利小損大トレードを繰り返して勝手に自滅します。これはプロスペクト理論によって見事に説明されます。

【含み益:コツコツ】

含み益があるとその金額が参照点になり、含み益が減るとあたかも損をした様な気分になります。増えれば得なのですが、それよりも損失回避の方が心理的価値が高いため、含み益が減ることを恐れて直ぐに利確してしまいます(損失回避性)。

【含み損:ドカン】

含み損が大きくなるほど鈍感になり、多少含み損が増えてももうどうでもいいという気分になります(感応度減少性)。一方で含み損が減るのは嬉しいため、含み損が減る可能性に賭ける方が心理的価値が高く感じられる様になり、いつまで経っても損切りができずに限界まで含み損を我慢し、強制ロスカットされるか、含み損の大きさの恐怖に耐えられなくなった時点で初めて損切りをすることになります。

例えばパチスロで9万円負けた後に今月の生活費として財布に残しておいた最後の1万円まで賭けてしまうのは、損失を確定させてしまうのは余りにも苦痛が大きい一方で、損失をチャラに出来るわずかな可能性には非常に強い魅力を感じるという心理的価値によって説明されます。

つまり「コツコツドカン」は歪んだリスクとベネフィットの価値判断によって引き起こされており、この価値判断は生存本能に由来することから直感的な(つまり普通に)トレードをする以上は決して避けられない個人トレーダーの宿命だと言えます。

 どうやって避けるのか? 

直感でトレードをやると自然界で生き抜くために必要だった本能が邪魔をして「コツコツドカン」となり、相場では負けてしまいます。これを回避するにはまず、

ルールに従ってトレードすることが挙げられます。どんな手法でも構いませんが、ルールに基づいて機械的に処理をすれば直感が判断に付け入るスキを減らせます。

利小損大を避けるには上がった場合、下がった場合の対応を予め決めておく。または、利確や損切り幅をルール化しておくのが有効です。

また、感情では経済的合理性を適切に判断することが難しいため、未来を予想しないことも重要だと考えられます。不安になっても楽観しても未来とは無関係であるため、未来を予想することによって引き起こされるこれらの感情は合理的な判断を鈍らせる結果に繋がります。

これらを継続し、勝ちパターンを発見し負けパターンを減らす意味ではトレードの記録をつけるのが役に立ちます。特にどう考えてポジションを持ったのかを記録し結果を追跡することで、その前提が間違っていたらカットすればいいので損切りの精神的負担が大幅に軽減されます。

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